左の図は歯科医なら誰でも知っている「カイスの輪」と言われるものです。
1~4の条件が整って初めて虫歯ができるということを表した図です。
逆に言えば1~4の条件が1つでも欠落すると虫歯にはならないのです。
以下でもうちょっと詳しく説明しましょう。
まず、1の「歯牙」。これは当たり前です。
歯が無いところには虫歯は出来ません。
2の「細菌」。口の中にはたくさんの「細菌」が住んでいます。
この中の虫歯菌が増えた時に虫歯になります。
そして細菌を増やす原因が3の「食物」です。
人間が食べて栄養があるものが「食物」ですから食べカスといえど、細菌にとっては「御馳走」です。細菌は肉眼では見えません。食べカスは目で見えるもの、目で見えないもの、いろいろです。ミクロの世界では、人間の肉眼で見える食べカスも見えない食べカスも大量の「御馳走」です。これを食べて細菌は爆発的に増えていきます。
もともと、カイスの輪はこの「1、2、3」だけでした。でも、考えてみるとこの3つだけなら1日に何度も条件が整います。何かを食べたり飲んだりする時はいつもこの条件になります。いちいち虫歯になったら大変です。
そこで付け加えられたのが4の「時間」です。実はこの「時間」という要素はとても重要で細菌が大量に増えた状態が長ければ長いほど虫歯になるリスクは高まります。食べた後にブラッシングを推奨するのは、3の「食物」というリスクを4の「時間」というリスクが整う前に出来るだけ取り除くためです。
もうひとつ加えておきます。
患者さんで時々「私の親は歯が悪かった。私も遺伝で歯が悪い」と遺伝が原因で虫歯になりやすいと考えている方がいらっしゃいます。遺伝は虫歯の条件1~4には入っていません。遺伝ではなく感染で親子共々歯が悪いのです。なぜなら生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には虫歯菌はいないからです。感染源は箸やスプーンなどの食器、チュー、食物の口移し等です。
5歳未満の子供の虫歯感染は100%親に原因があります。気を付けてください。
左の図は歯医者が使う虫歯の状態を表す記号でいう「C1」です。
歯は3層構造になっていて表層にエナメル質、第二層に象牙質、三層目に歯髄(神経)となっています。C1とは虫歯菌感染被害が第一層のエナメル質で留まっているもののことを言います。この段階では痛みを感じることも無いので定期健診で見つかることが多いです。もちろん鏡でよくチェックしている方は、ご自分で見つけて来院されます。中には感染はしたものの、その後のケアが良くて進行しないものがあるので、黒くなっているから即治療という訳ではありません。
これは「C2」です。最初の「C1」が第一層が虫歯菌感染したものだったので「C2」は第二層の象牙質まで感染被害が及んだものです。ここまで感染被害が拡大すると、冷たい物がしみるようになります。歯医者はこれを「冷水痛」と言っています。
図を見てください。二層目で黒い虫歯の層が広がっているのがわかりますか?象牙質はエナメル質と違って有機質が豊かです。有機質とは簡単に言えば栄養分です。エナメル質は無機質で栄養が無いので細菌は糖分から酸をつくってエナメル質を溶かし、栄養が多い象牙質に達したところで増殖して食い荒らします。感染の進行速度も上がります。
このときに何か食べると、中の象牙質が食い荒らされて空洞になったことによって、エナメル質が割れてしまうことがよく起こります。多くの方が虫歯と気づかずに「歯が欠けた」とか「歯が割れた」という表現で来院されます。
「C3」。ここまでくると来院された方には「痛かったでしょう。よくここまで我慢しましたね。」という言葉をかけてあげたくなります。三層目の神経まで感染被害が拡大した状態です。症状は温度に対して過敏に反応し、自発的な「ヅキヅキ」が起こります。「何をしていても痛む。」「鎮痛剤も1、2時間しか利かない。」「顔面半分が痛む。」などなどです。
ある意味これは当たり前です。感覚神経に細菌が感染して神経が炎症を起こし死にかけている状態です。肌に擦り傷ができてちょっと炎症が起こっても痛いのに、神経に直接細菌が感染して炎症を起こしているのだから痛くないわけがないのです。
こうなると神経を助けてあげられる可能性が極端に減ります。「C2」のときに受診しておけば、助けられたかもしれない神経です。
「C4」です。歯茎より上の部分(歯医者は歯冠という)が崩壊してしまった状態です。神経も壊疽(死んで腐った状態)を起こし根の先端には壊疽を起こした神経によって膿が作られています。
「C3」の状態で神経が死に掛けている時に激痛が起こるのですが、神経が死んでしまうと嘘のように痛みがなくなります。当然です。痛みを脳に伝達していた組織が死んでしまったのですから。
しかし、ここで新たな脅威が出現します。それが根の先に溜まった膿です。この部分に膿が溜まると噛んだ時にもろに圧力を受けるので「ヅキン」とします。もっと怖いのが、食べカス等で神経が入っていた管が塞がると、膿はどんどん生産されるけれど抜ける場所がない状態になり、中の圧力が高まり「ヅキヅキ」が再び起こります。しかし今度の「ヅキヅキ」は神経と関係ないので中の圧力を抜かない限り解消されません。また、外観上も腫れが目立つようになります。
こうなる前に歯医者に通いましょう。せめて「C2」の段階で処置するように心掛けましょう。